#林ファミリーぶどう園
#ブドウをするために家族で移住
#真庭市北房はブドウの産地
#直売でしっかり稼いでいる
#新規就農希望者を受け入れたい
#作業はオーディオブックを聴きながら
#農閑期は家でアマゾンプライム
Q. 農業を始めたきっかけを教えてください
昔から「農業がしたい」と思っていました。たぶん僕の属性なんです。例えば子どもの頃、京都のマンションの6階に住んでいたのですが、ベランダでミニトマトを育てたり。ホームセンターに行っても機械類よりも、植物とか生きものの方が好きでした。
ただ、両親はまったく農業に関わっていなかったので、あまり「仕事にする」という意識はありませんでした。どうすれば農業ができるのかもわからず、そもそも「農業って食えない」と思っていたので(笑)。「余生で農業ができればな」ぐらいの感覚でした。
そういう思いを抱きながら、大学は農学部に進み、卒業後1年間ぐらいオーストラリアに渡って大規模農業を経験して。その後、大阪や高知で(農家ではない)農業に携わる仕事をしていました。
そんな中、大阪での仕事の縁で、岡山県高梁市(たかはしし)でブドウをされている農家さんと出会ったんです。あるとき、そのブドウを食べさせてもらって。食べた瞬間に妻と顔を見合わせて「これだ!」となりました。25歳のときだったと思います。
Q. それで、ブドウ農家になろうと思われたんですね。でもなぜ、真庭市に?
ブドウ農家を志して、いろんな就農フェアにも参加する中で、たまたま真庭市北房(ほくぼう)の農事組合法人清藤(当時)の平泉繁さんと繋がったんです。平泉さんも大阪から移住した農家さんで「うちにおいでえ」と言ってくださって。真庭市に縁もゆかりもなかったんですけど、就職(正社員)という形で移住を決めました。
いきなり農家として独立することも考えていたんですけど、「ヨソモノがゼロからブドウをやるのは不可能に近いな」と思ったので、農事組合法人に就職することにしました。
家族を背負いながら、転職と引っ越しを同時にするわけですから、かなりプレッシャーを感じていました。「もう戻れないぞ」って。移住と同時に、家も購入したので。もっと言えば、妻の両親も真庭へ移住してきてるんですよね。いまは妻の両親にも繁忙期にはブドウを手伝ってもらっています。
Q. 就農後、独立して「林ファミリーぶどう園」を立ち上げられたわけですが、独立までの流れを教えてください
清藤で働いていたのですが、清藤の組織改変にともなって、独立・農地の取得(清藤が持っていたブドウ畑)の機に恵まれ、思い切って独立することにしました。
本来、ブドウ畑を始めようと思ったら、ゼロから生計を立てられるようになるまで7年ぐらいはかかるんです。そんな中、清藤から成木のあるブドウ畑が購入できて、とても理想的なスタートを切ることができました。
移住のときはたしかにプレッシャーを感じていましたけど、独立のときはそれほど不安はありませんでした。勤めていた「清藤の商品力」を知っていて、そのブドウをそのまま継ぐことができるわけですから、「勝負できる!」という自信がありました。
そもそも岡山県北のブドウってピオーネ・シャインマスカットといろいろ品種はありますが、どれも非常にクオリティが高い。気候の良さはもちろん「北房地域」というブランド力、北房特有の石灰質の土壌……。やる理由を挙げ始めたらキリがありません。
Q. また、販路は直売(JAなどの市場を通さず、直接消費者さんに販売する方法)が中心とお聞きしました
いまは「直売」だけですね。直売だけで充分、家族を養っています(笑)。そもそも北房のブランド力なら、直売でも市場出荷でも暮らしていけると思います。
それも考え方で、いま僕は「すでにある高品質のブドウを適切な価格で売っている」だけなんです。市場をいくつも通したブドウよりも、僕たちの提供するブドウのほうが消費者さんにとってはお買い求めやすい価格になっている(しかも手元に残る売上も大きい)。
直売だと、鮮度も良いんです。大阪でも東京でも「直接」消費者さんに届けるわけですから、ぜんぜん鮮度が違います。品質に加えて鮮度が良い、価格もお買い求めやすい。圧倒的に勝てる勝負なんですよね。
ただ、どう消費者さんと直接繋がっていくか。繋がった後も顧客管理や個別対応、発送準備など繁忙期にいろいろ重なってきます。それを思って直売をされる農家さんが少ない。重い腰さえ上げれば、まだまだできる余地はたくさんあるので、直売はとても魅力的だと思います。
Q. ただ、農作物の収量は不安定とお聞きします。「林ファミリーぶどう園」ではどうされているんですか?
災害が増えていますけど、ブドウって収量がゼロになりにくいんです。そもそも真庭は地震が少ない土地です。また台風が来てもブドウはツル植物なので「落ちる」ということがあまりないんですよ。夏の異常な暑さや大雨で、ブドウが割れてしまうことはあります。
でもそういう場合も「直売」ならではの販売方法があって。状態の良いものはもちろん「贈答用のA級」として販売する。それができなかったら、少し実を間引いて「家庭用」として販売する。さらにそれにも至らなかったら「ワケあり」として販売する。
災害などの影響でもっと厳しい場合は、ひと粒ずつ切って「粒切り」として販売しています。はじめは「すみません。こんな姿になってしまって」と思っていたのですが、いざ出してみたら、お客さんから「逆に食べやすくて良かった」「大きい状態でもらっても、結局切って冷蔵庫に入れるので、ちょうど良かった」など、バカ売れしまして。
だから、僕はいま農業保険のようなものには入っていないんです。「粒切り」で売れるなら、まあなんとかなるんじゃないかと思って(笑)。そういう点でも、ブドウは災害に強く、直売向きだと思います。
Q. ちなみに1年間、だいたいどんなスケジュールで働かれているのでしょうか?
まず4月にビニールを張ります。5月のGW明けぐらいから芽が出てくるので、枝を管理したり、ブドウのお世話をしたり、草を刈ったり。5月から7月末までは忙しいですね。7月の袋掛け(ブドウ1房ずつに袋をかける)が終わったら、少し落ち着きます。
ブドウの収穫は、8月下旬ぐらいから始まります。それから10月中旬ぐらいまではまさに繁忙期。とくに僕のところは直売なので、収穫をして箱詰めをして発送して。さらにお客さんの対応(名簿上約6,000人)もしていくので、かなり忙しくなります(義理の両親にも手伝ってもらっています)。
繁忙期を過ぎると、それから2ヶ月間は何もありません。葉っぱが落ちるまで待って、葉っぱが落ちたらちょっと掻いて。土を耕したり、肥料を入れたり。2月になったら枝をちょっと切ったりして。それが終われば、また3月もほとんど何もないです。
なので、ギュッとまとめたらたぶん半年ぐらいしか働いていないです(笑)。農閑期の冬の作業は僕ひとりでしています。書籍を読み上げてくれるオーディオブックをイヤホンで聴きながら、ひとりで黙々とするのが楽しくて。
ちなみに11月とかは、まるまる1ヶ月本当に何もないので、家でアマゾンプライムを観て過ごしています(笑)。
Q. お話を聞いていると、とても魅力的な作物に感じます
みんな、ここでブドウをやったら良いのにと思っています(笑)。都市部で働くのも良いですけど、満員電車に揺られたり、会社の人間関係に疲弊したり。削られていくぐらいなら「そこそこ稼げるブドウをするのはどう?」って伝えたいです。
ただ、もちろん課題はあって。例えば、新規就農希望者さんは「ブドウの棚を確保する」というハードルはいまだあると思います。でもそれもいま「辞めたい(規模を小さくしたい)」という年配のブドウ農家さんの「棚」と新規就農希望者さんを繋ぐ、そんな準備を進めています。
その他、想定外だったのは「ヘルニア」ですね(苦笑)。さすがにあのときは先が真っ暗になりました(いまはもうすっかり大丈夫です)。でも結局まとめたら、精神的にも経済的にも「北房のブドウほどオススメな果樹はない」ということです。
聞き手・編集 甲田智之
写真 石原佑美