#本多ぶどう園
#地元出身のブドウ農家3代目
#もともとトラックの運転手
#落合地域の頼れるアニキ
#新規就農希望者をどんどん受け入れ
#空き圃場の情報がどんどん集まってくる
#剣道一家
#狩猟もする。趣味は飲酒
Q. 農業を始めたきっかけを教えてください
祖父の代から農業をしている家で、いまから10年前(2014年ぐらい)にトラックの運転手を辞めて、父から継ぐような形でブドウ農家になりました。長男なんで「いつかは継ぐんだろうな」とは思っていたんですけど、きっかけはありましたね。
父親がどんどんブドウの圃場を広げていく中で、あるときあまりの忙しさからビニールハウス内の熱を逃がすのを忘れていて、中のブドウが干上がって、全部「干しぶどう」みたいになってしまったんです。もう手がまわっていないのが明らかで「そろそろかな」と思って会社を辞めて、継ぐことにしました。
いまブドウ専業(ピオーネ・シャインマスカット・クインニーナ)なんですけど、ブドウを専業にしたのは父親です。家の田んぼをブドウの圃場にしていき、いまは120アール(1アールがだいたい学校の教室1つ分ぐらい)になっています。田んぼでお米をつくるよりも、ブドウの方が売上が良いんですよね。

Q. 研修生さんをよく受け入れられているとお聞きしました
これまで7名(令和6年現在)の新規就農希望者を受け入れてきました。「ブドウをやりたい理由」も出身地もいろいろ、しかも20代から40代まで幅広いですね。いまも2名の受け入れをしています。
受け入れている理由は、「産地」として考えているからですかね。産地として考えたら、やっぱり「専業でブドウ農家として食べていける人がここに集まらないといけない」。もちろん、うちの圃場がそれなりの規模ということもあります。比較的規模が大きいので、閑散期と言われる時期にも作業があって、しっかりと学ぶことができます。
流れで言えば、まず新規就農希望者はオリエンテーションに参加します。そのときに北房(ほくぼう。真庭市南部)のブドウをしている法人か、うちか、真庭市北部のトマト農家(路地野菜など)を見てまわり、希望者の決めたところと面接をします。
うちを選んでもらったら、私も面接に同席します。聞かせてもらうのは「やる気」や「覚悟」ですかね(笑)。やはり厳しさもあるので。また必ず最後に「あなたは自分に甘いですか? それとも自分に厳しいですか?」と聞くようにしています。受かれば、その後基本2年の実務研修(※)に入ります。
※実務研修:農業実務研修のこと。最長2年間、年間150万円の支援が受けられる。

Q. 研修で来られた方には、ブドウづくりをどのように伝えていますか?
まずはコミュニケーションですね。たくさん話をして、人間関係づくりから始めています。それから最初に「やり方」を教えて、あとはとにかく「実践」を積んでもらいます。「これ、やっといて」はなく、いつも一緒にいて圃場で作業しながら、わからないことを都度聞いてもらうようにしています。
遠慮もいらないというか。研修生全員に伝えているんですけど、私たちは「使う・使われる」の関係じゃないんですよね。研修後は自分でブドウづくりをしていかなければならない。そのための研修なので。「使われている」という感覚だとなかなか覚えられないと思います。
実務研修は最長2年ですけど、1年でちょうど良い圃場が見つかれば、そのまま新規就農してもらうこともあります。なので「来年には1人で就農する・就農できる」というのを身体で覚えてもらうんです。
繁忙期の5-7月は正直なところ、休みはほとんどないと言って良いです。さらに陽の出ているあいだは作業になります。ブドウは生きものですから。待ってくれないんですよね。作業が遅れていくと、ブドウに置いていかれてしまう。「自分に厳しいですか?」と面接のときに問うのは、作業が遅れそうなとき自分に厳しくできるか、を知るためなんです。

Q. すぐに1人立ちするための実務研修をしているんですね。でも「すぐに圃場が見つかるか」という心配もあると思うのですが
たしかにブドウの圃場を1からつくろうと思ったら大変です。お金もかかるし、ブドウの木を植えてもすぐに収穫できるわけじゃない。ただ、私たちが紹介するのは「もう手放したい」と言われる元ブドウ農家さんの圃場。いわば現役の圃場。だからほとんどお金をかけず、すぐにブドウが収穫できる。ちゃんと収益が上がるんです。
もともとこのあたりのブドウ農家は、祖父の代から始めた方が多いんです。その方たちがいまちょうど高齢に差し掛かって、続けるのが難しくなっている。そこである程度の規模感がある私のところに「圃場を何とかしてほしい」と相談があるわけです。その圃場を新規就農希望者さんに紹介する。そのまま就農する。そういう流れができています。
これまでのケースで言えば、私が預かった圃場の近くにたまたま空き家があって。地元の方から「あの空き家も使ったらええ」と世話をしてもらって、そのまま圃場も家も手に入ったケースもあります。

Q. では、ここで実務研修を積めば、1人立ちできるということですか?
1年目からなんとかなるように、する(笑)。すぐに収穫できる圃場を用意するのをはじめ、実務研修を終えて、ほったらかしにすることはありませんから。都度、ブドウの様子を見に行ったり、飲み会を開いて情報交換をしたり、後の繋がりを大切にしています。
あと1人立ちする上で伝えているのは、「すべての作業に時間をかけて考え過ぎない」ですかね。ブドウの様子を見てまわるのも、例えば「粒間引き(摘粒)」のスピード感を見るためだったりするんです。
早い段階だったら、ブドウの粒って間引きやすいんですけど、遅くなったらどんどん粒が育ってくっついて、間引くのが難しくなっていく。間引くのが難しくなると、さらに遅くなってしまう。
気持ちはわかります。スカスカになってもいけない。かと言って実が詰まり過ぎたギチギチになってもいけない。そのため、1年目の方はひと房に完璧を求めて「粒間引き」に時間をかけてしまう。ただ、ひと房の粒間引きに5分も10分もかけていたら間に合いません。なので、スピードが求められるわけです。

Q. スピードが求められるブドウづくりですが、魅力はどこに感じますか?
比較的、作業しやすいという特徴はあると思います。ブドウには葉っぱがあるので、夏場も直射日光が避けられ、雨の日もトンネルのナイロンが雨よけになるので、ずぶ濡れで作業しなくて良い。あと、ここ真庭の特徴にもなりますが、台風の被害が少ない。さらにブドウは軸が太いので風の影響を受けにくい。災害に強い作物だと思います。
もちろん収入保険には入っています。農業共済(通称NOSAI)の収入保険かな。台風であろうが窃盗であろうが、過去5年の売上平均から下まわった分だけ補填される。まあもし何かあったら何かあったで、心配しても仕方ないから。雨も降るものは降るからね(笑)。
私のところで言えば、あと「冷蔵庫」があるんです。普通に秋ごろ収穫したブドウを冷蔵庫に入れておいて、時期をズラして出荷すれば、需要と供給のバランスで単価が上がります。
例えばクリスマスシーズンってケーキのためにシャインマスカットを使うと思うんですけど、本来時期ではなかったりするわけです。そこで冷蔵庫で保管しておいたシャインマスカットを出荷すれば、当然単価が上がります。ブドウにはそういう可能性があると思います。

Q. 最後に新規就農希望者さんに何かメッセージはありますか?
ブドウづくりは正直なところ、大変です。5-7月の繁忙期は体力的に大変で、それ以外の月も「病気にならないかな」と気になることがたくさんあります。でもそれ以上にも増して、楽しいです。産地を盛り上げたいし、ブドウをつくる愉快な仲間が増えたらな、と思います。
これまで研修で来られた方もみんな面白い方ばかりなんですよね。収穫が終わって、土づくりも終わって、みんなでする「お疲れさま会」も楽しいんです。どうしても作業って1人になりがちですけど、「繋がり」もしっかりと感じられる。ブドウに興味のある方はまずオリエンテーションに参加してもらえたら、と思います。
聞き手・編集 甲田智之
写真 石原佑美
