まにわの農家手帖
中北修さん

作成日:2026.5.7 最終更新日:2026.5.7

スマート農業 地域おこし協力隊

中北修さん

  • #地域おこし協力隊
  • #農業経験ゼロからの転職
  • #しかも縁もゆかりもない土地で
  • #スマート農業で水稲
  • #ドローンも勉強中
  • #ひとつずつ信頼を築いてきた
中北修さん

1

協力隊1年目に携わった田んぼの規模(約1ヘクタール)

20万円

真庭市の協力隊・月額報酬の目安

3

地域おこし協力隊の活動期間(最長)

Q

農業を始めようと思ったきっかけを教えてください

家内の実家が、香川県で水稲をしているんですけど、「代々受け継いできたその田んぼを守ってあげたい」という思いがまずはあって。ただ、私も年齢を重ねていくので(笑)、長く続けていくために「スマート農業」を取り入れようと考えていました。

そこで香川県をはじめ、「スマート農業」が学べそうな場所を探していたんですね。前職で10年ぐらい、岡山で勤務したこともあったので、岡山県も候補のひとつでした。岡山なら香川の両親のもとにも駆けつけられる。その距離感も良かったですね。

水稲・田んぼの様子

Q

そのなかで、どうして岡山県真庭市の地域おこし協力隊に?

当時住んでいた関東圏で行われた移住フェアで、真庭市と出会ったんです。来られていた担当者から「未経験からスマート農業を用いて水稲をするのは、ハードルが高いと思います。収入の面もはじめは安定しないかもしれません。それなら〈地域おこし協力隊※〉という制度はいかがですか?」と勧められて。

もうひとつは、真庭市の農事組合法人がさまざまな産学官と「スマート農業」の実証実験を現在進行形で進めていたことです。ここならドローンをはじめとしたスマート農業が学べると思いました。

あと、香川の実家と状況が似ていることもありますね。農業の課題って、後継者不足なんです。香川でも真庭でも同じ課題感を持っている。そういう課題に対して、「地域おこし協力隊」という地域貢献に携わる立場からアプローチできるのではないか、とも思いました。

※地域おこし協力隊とは、都市部から過疎地域等に住民票を移して移住し、最長3年間、地域の盛り上げや農林水産業への従事など地域協力活動を行いながら、その地域への定住を図る総務省の制度です。真庭市の場合、月額報酬20万円程度(別途2回賞与)が支給され、住宅補助3万円なども行っています。

地域おこし協力隊・農業の様子

Q

地域おこし協力隊になってみていかがですか?

正直に言うと、思っていたのとは違うなと感じています。ぜんぜん悪い意味ではなく、実際に農業に携わってみると、覚えることが多すぎて(苦笑)。

スマート農業を学ぶという方向性に変わりはないんですけど、そのためにはスマート農業に頼らない従来の農法を学ぶ必要があるなと思って。なにごとも基本を大切にしたいと思っていますので。

従来の農法を学ぶことで、従来の農法もスマート農業も、状況や環境に応じて使い分けられる。そういうハイブリッドな農業ができれば、と考えています。

いま(地域おこし協力隊2年目)は、いくつかの農家さんや農事組合法人さんに出入りさせてもらいながら、また教えてもらいながら、田んぼも一部任せてもらってハイブリッドな農業を試しています。

もちろん農家として生きていく上での、人間関係づくり――農閑期の野菜づくりや草刈り、水路の掃除など、そういうお手伝いもさせてもらっています。

農家や農事組合法人での活動の様子

Q

協力隊の1年目、どれぐらいの規模を管理されたんですか?

ざっくり言うと1町(約1ヘクタール※)です。はじめ農家さんのご厚意で、5反(3反と2反を合わせた2枚の田んぼ)を「ドローンの播種とか、自由にスマート農業を試して良いよ」と言ってくださって。

それでスタートしようかなと思っていたんですけど、さらにご厚意で「もう5反(3枚の田んぼ)はスマート農業を用いない従来の農法でやってみたら」と提案いただいて、1年目から1町の田んぼに携わらせてもらいました。

スマート農業用のドローンやコンバインなどの農機具も、農家さんからお借りして、とにかく1年間は失敗もしながら水稲に挑戦させてもらいました。ただ目安として、1年目で1町は規模としてかなり大きいほうだったようで、私ひとりではできずに農家さんにめっちゃ助けてもらう始末でした(笑)。

田んぼ・スマート農業の様子

Q

日々どれぐらい現場に行かれていますか?

繁忙期の朝夕は必ず行っていましたね。朝は8時とか、夏場は日中が暑いので5時とか。その後、午前中いっぱい作業をして(実際の作業は6時-11時程度)、また夕方行って作業をする。そういう毎日でした。

スマート農業に携わるなら、本来「毎日行く」ということはないんですけど、はじめてだったのでどうしても気になって(苦笑)、毎日行っていました。気になって気になって、仕方がないんですよね。

私の性分でもあるのですが、その田んぼって農家さんからお借りしているものなので。苗や農薬、肥料、また肥料を散布する道具、それらも農家さんからお借りしているんです。なので、「私が携わったばかりに何も収穫できなかった」では申しわけが立たなくて。

任せてもらっているという責任もあって、やっぱり毎日田んぼには行っていましたね。

Q

そして実際に1年間、水稲に携わってみていかがでしたか?

1年間の流れでいうと、苗づくり・田植え・水の管理・除草・稲刈り・精米・ライスセンター業務。これが約半年のあいだにあります。そして、1年間、実際に水稲に携わってみて、課題がたくさん見つかったというのが、本当のところです(苦笑)。

たとえば、水の管理です。多いのか少ないのか、タイミングはいつなのか。その環境(日照条件・風や土壌の状態・水はけ具合)やお米の種類に応じた知識と経験が圧倒的に足りないな、と感じました。

また、除草もそうです。背負い式の動噴で除草剤を散布したのですが、散布にムラが出てしまい、なかなかきれいにすることができませんでした。

ただ、そんななかでも、その田んぼを持っている農家さんや、おとなりの田んぼを管理されている農家さんなど、いろんなことを教えてくださいます。

教えていただくためにもちろん、ちょっとした雑用などを手伝う人間関係づくりも意識しています。

水稲栽培の様子

Q

地域おこし協力隊卒業後の展望はありますか?

もともと香川の実家を、と言っていたんですけど、いまのところ香川に行くことは考えていなくて。真庭に定住して、真庭で農業に従事できれば、と考えています。

これは地域おこし協力隊あるあるなんですけど、「どうせ3年経ったら帰るんじゃろう」という目で見られることもあります。でも、真庭の定住率の高さが示すように、私も真庭に定住できれば、と思っています。

ただ、最近は同時に「次世代の若手に繋ぐ中継役になりたいな」と思うようにもなり、私が定住する・しないよりも、スマート農業を用いたハイブリッド農業の基礎をつくって、次世代に繋いでいけたら、と思っています。

私ひとりが引き継ぐことにあくせくするよりも、何人もの若手に「良いカタチ」で引き継ぐために動いたほうが、真庭の農業にとっても良いのではないか。そう思うようになっていますね。

Q

最後に、これから地域おこし協力隊として農業に携わりたいと思う方へメッセージをお願いします

協力隊で来られる方のなかには、自分のスキルを生かして「こういうことをやってやろう」という方がいらっしゃるんですけど、それを強引に推し進めることが必ずしも良いことではない、という風に思います。

やっぱり現場は現場、地元は地元でいろいろ考えながらいままでやってきているので、それをひっくり返すようなことはしなくても良い。ハレーションが起こるだけではないかな、と思います。

まずは「聞く姿勢」というか、「学ぶ姿勢」が大事なんじゃないかな。我を押し通す行動力・突破力が必要なのもわかりますが、「バランス」を念頭に置いてほしいと思います。

真庭はほんとうに「ひとが良い」です。移住でよくあるような、「中に入れない」ということはありません。それは地域おこし協力隊を管轄する市役所も然りです。だからこそ、「ともに」を意識してもらえたら、と思います。

中北さんの農業・活動の様子

聞き手・編集 甲田智之
写真 石原祐美