まにわの農家手帖
松本憲幸さん

作成日:2026.5.20 最終更新日:2026.5.20

ミニトマト 新規就農 蒜山 施設園芸

松本憲幸さん

  • #大阪から蒜山に移住
  • #22ヶ国をめぐった元バックパッカー
  • #ミニトマト農家
  • #蒜山の黒ボクに惚れて
  • #ミニトマトは新規就農者向き
  • #今はミニトマト部会長
ミニ
トマト
松本憲幸さん

2

先輩農家での研修期間

3年目

自分のハウスから栽培の手応えを感じ始めた年

3〜4

ミニトマトハウスがあれば生活できる規模

Q

農業を始めたきっかけを教えてください

もともと農業経験がなかったわけではないんです。若い頃、バックパッカーをしていて、24歳から30代前半ぐらいまで、ほぼ家には帰らず22カ国ぐらいを旅していました。その旅費をつくるために、長野県でレタス畑の住み込みバイトをしたことがあって。自然の中で働くのが好きだったんで、その記憶がずっとあったんです。

ただ、帰国後は大阪で介護士の仕事をしていました。結婚してからも介護士を続けていたんですけど、事故に遭ってしまって。2年弱療養する期間があったんです。

そのあいだに介護士の給与のこととか、「組織のなかで働くのは向いてないな」という風に思って転職を考えていたんですね。

そんなときに「自然が好き」「山登りが好き」というのを知っている妻から「農業が向いてるんじゃない?」って勧められたんです。それでその気になって。1人でもできるなと思って農業を選びました。

松本さんの農業の様子

Q

介護士から農業へ。その間にはどんな準備をされたんですか?

 まず大阪にある有機農業の学校に通いました。1年間通いながら、大阪の農家さんのところでアルバイトをして。有機農業の学校に通ったのは、最初はやっぱり「有機農業」「無農薬」が理想だったんですね。今は基本、慣行農業なんですけど、有機に近づけた農業をしようとは心がけています。

 アルバイト先では水稲と枝豆、キャベツ、ハウスで少しだけトマトを栽培していました。でもまだ「何を育てるか」ピンと来ていなかったです。

農業の準備・研修の様子

Q

その後、真庭市の蒜山に来られたわけですが、蒜山を選ばれた理由は?

 ネパールの山とか登るぐらい登山が好きで、山が近くにあれば良いなと思っていたんです。あと妻の実家が岡山市内なので、そこからそう遠くないところで探していました。

 いろいろ探すなかで、たまたま蒜山の道を通ることがあって。このあたりは農地もたくさんあって、何より「黒ボク※01」の土地だったんですよね。

黒ボクにちょっと憧れがあって。扱いやすいっていうのもあるし、軽いっていうのもある。水はけも良くて、農業に適している。ちょうど蒜山振興局(真庭市役所の蒜山支所)が見えて、そのまま蒜山振興局に乗り込んだんですよ(笑)。

 そうしたら「近々、大阪で〈起農スクール※02〉があります」と案内してもらって、数回通ったら、あとはトントン拍子でした。

※01蒜山に多く見られる、火山灰と腐植物質で構成された土壌

※02当時、大阪で実施していたセミナー形式の農家を目指すための勉強会(現在は「農業体験研修プログラム」として真庭市内で実施している)

蒜山の農地の様子

Q

どうやってミニトマトに決められたんですか?

 蒜山にも通うなかで、知り合った方からミニトマトを薦めてもらったんです。単価の良い作物だと教えてもらって。

今となっては、ミニトマトを選んで良かったなと思っています。めっちゃ向いていましたね。僕、けっこうせっかちな性格なんですけど、ミニトマトも肥料とかあげたことに対しての反応がすごく早くて、相性が良いんです。

 あとハウスを使う「施設園芸」というのも良かったです。露地野菜(ハウスを使わない野菜栽培)は本当に体力が必要なので。「露地野菜をする自信ないなあ」と今でも思います(笑)。でも施設園芸だったら、身体の強さがある程度あったらだれでもできる。暑いのは暑いですけど。

Q

ハウスを建てて、スタートされたんですか?

いえ、最初の2年間は中古のハウスを借りて始めたんです。市役所の人から辞められた方のハウスを紹介してもらって、借りて。そこから始めて、やりながらハウスを建てる自分の圃場を探そうと考えていました。だから始めたときは「ミニトマトをする」以外、ほとんど決まっていないまま始めたんですよね。

 一般的に、先輩農家について2年間研修※してから独り立ちするパターンだと思うんですけど、僕はもうすぐいきなりトマトの栽培を始めました。研修でいう師匠にあたる人がいないんですよね。近くの農家さんのところに行って、見よう見まねでどうにかやって。

 でも最初の2年間、冬場の仕事がないので(積雪があるため)、えのき茸工場で働いていたんです。その工場で出会った方からたまたま土地を提供いただけたんです。やっぱり人の繋がりですよね。そして3年目から自分のハウスを建てて、その土地で始めました。

※真庭市が指定する研修先へ最長2年間、支援金が受けられる研修制度。最新の支援制度や支援金額は支援に関するお金各種のページをご確認ください。

Q

軌道に乗るまでの流れはいかがでしたか?

 1年目は1棟から始めて。2年目は2棟でしたけど、年間150万円の支援もあったので、まだ「これはできるな」という手応えはなくて。やっぱり自分のハウスを建てた3年目からですね。そこからです。

 自分のハウス2棟から始めたんですけど、それなりに収穫できて成績も良くて。栽培方法も自分のやり方が見えてきて。その3年目の時点で「これはいけるな」と思いました。

 やっぱりね、人の土地とかハウスって、なかなか自分の思うようにできないわけです。どうしても遠慮もあって、気を遣うこともありますから。でも自分のハウスなら自分のやりたいようにできる。それが大きかったと思います。

ミニトマトハウスの様子

Q

地域に入ること、他の農家さんとの繋がりについて教えてください

バックパッカーとしていろんな街に1ヶ月とか滞在する旅をしていたので、新しいところに入っていくのは、どちらかと言えば慣れているほうだったと思います。

それでも最初はいろいろ考えましたね。どなたからどう話せば円滑なのか。蒜山に身よりがなかったので、相関図のようなものがまったくわからなくて。

 ただ、「人との繋がり」ですよね。えのき茸工場で出会った方に本当に良くしてもらって。しかもその方ってミニトマト部会の部会長をされていた方で、今は僕がその部会の部会長をさせてもらっているんですけど、土地のことはもちろん、「農家たるもの」という生き方など本当にいろいろ教えていただいたんです。

 その方との出会いがとにかく大きかったです。地方で農業をしようと思ったら、そういうキーになる方との出会いというのは、とても大切だなと思います。

Q

ミニトマト栽培の魅力について教えてください

 ミニトマトは基本、単価が良いんです。最近の暑さでほかの野菜ができないなか、ミニトマトは収量が安定していて単価が上がっているんです。

ただね、ミニトマトってけっこう面倒な品目なんです。細かくて、マメさが必要で。そういうことが苦でない方なら向いていると思います。そこがクリアになれば、ミニトマトは絶対にできます。脇芽をとって、誘引して、肥料をちゃんとあげて。この蒜山の黒ボク土との相性も良いので、蒜山でやるならオススメの作物です。

 もうひとつ、反収(たんしゅう=単位面積あたりの収量)がかなり高いんです。なので広大な土地はいらなくて、狭い土地にハウス4棟で充分生活ができると思います。けっこう新規就農者向きだと思うんですよね。

 ハウス3棟か4棟あれば、生活できるっていうのは魅力だと思うんです。資金も「日本政策金融公庫」の農業者向け無利子融資制度から借りられるので、僕もハウスを建てるのに借りて。それを利用すれば始められますよね。

Q

これから新規就農を目指す方へメッセージをお願いします

くり返しになりますけど、本当に小さな土地でできるっていうのは、新しく農業を始める上で、かなりのアドバンテージだと思います。1年目から収穫ができるっていうのも大きいですね。例えば、果樹だったら木を育てるのに5年かかるものもありますが、ミニトマトは1年目からちゃんとお金になります。

 作物によって向き不向きがあって、僕のようなせっかちで細かい作業が好き、あと1人で黙々と作業をするのが好きな人には、ミニトマトって向いていると思います。

 あとはこの蒜山という場所ですよね。各地で高温障害が出ているなか、蒜山はまだ標高が高く、寒冷な場所。まあ言っても暑いんですけど(笑)、でもほかと比べても蒜山は「農業をする場所」として、これから可能性のある場所だと思います。もっとどんどん来てほしいですね。

松本さんのミニトマト栽培の様子

聞き手・編集 甲田智之