まにわの農家手帖
近藤亮一さん

作成日:2026.4.7 最終更新日:2026.4.7

自然栽培 蒜山 オンライン販売

近藤亮一さん

  • #自然栽培で米づくり
  • #化学肥料も農薬も使わない
  • #禾(こくもの)
  • #アジア学院で強烈な体験
  • #奥さんは養鶏
  • #販売はオンラインが軸
  • #無類の読書家
  • #最近読んだ本は「飢饉」について
近藤亮一さん

2.6ヘクタール

自然栽培の田んぼ規模

9

リピーター・定期のお客さま(お米)

70

定期でお米を届けていれば経営が成り立つ目安

Q

農業を始めたきっかけを教えてください

直接のきっかけは、栃木県にある「アジア学院(※)」で1年間ボランティアをしたことですね。

もともと国際協力や途上国支援に興味があって、「アジア学院」のアジアやアフリカの人たちと共同生活しながら、農村指導者を育てるプログラムにボランティアとして参加しました。

4年ぐらい会社員をしてから参加したんですけど、「アジア学院」ではほとんど自給自足のような生活で、そこではじめて農業に触れて「なんかいいな」と思ったんです。

その後、広島で2年ぐらい、養鶏や水稲、野菜づくりに携わっていました。妻も一緒で、ただ妻は野菜や養鶏向きだけれど、水稲はあんまりで。一方の自分は水稲も良いなと思って。その経験が、いまの選択に関わっていると思います。

そしていよいよ「専業農家として農業を生業にしていこう」と決めて、岡山県真庭市の中和(ちゅうか)というところに移住しました。

※アジア学院とは、アジア・アフリカの農村地域から指導者候補生を受け入れ、持続可能な農業技術や地域づくりの方法を学ぶ1年間のプログラムを提供している教育機関です。化学肥料に頼らない有機農業、地域に適した技術の活用、そして住民同士が協力し合う共同体の形成方法などを学んでいます。

田んぼや農作業の様子

Q

どのような農業をされているのですか?

「自然栽培」をしています。ほとんどの農家さんは栄養となる化学肥料、病気などのトラブルを防ぐ農薬を使っていますが、私はどちらも使わずにお米づくりをしています。

もうひとつ特徴的なことで言えば、自然栽培のなかでも規模が小さいことです。現在は2.6ヘクタールほどで、田んぼ一枚いちまいにゆっくりと手をかけています。

つくっているお米は、ササニシキ・亀の尾・こがねもち(もち米)の3種類です。どれも古い品種なんですが、私の見聞きするなかでは自然栽培をしている人たちって「古い品種が良い」と考えていると思います。肥料や農薬を使わない栽培ですから、そういうものがなかった時代の「種」を使うほうが良いだろうと考えているんですね。

ちなみに、お米のほかに大豆と麦もつくっています。妻とふたりで農業をしていて、妻は養鶏を担当。私は穀物を担当しています。

自然栽培の田んぼの様子

Q

自然栽培を選ばれたのはどうしてですか?

やっぱり「アジア学院」の影響が大きいと思います。そこでは「化学的な肥料はダメ。農薬もダメ」という思想を持った人たちが多かったんですね。

それもそのはずで、アジアやアフリカでは、農薬による健康被害や土壌汚染、川の汚染が深刻なんです。そのため、そういう薬品を使わずに食べものをつくる方法を求めて、「アジア学院」へ来られている方が多かったんです。

ただ、実際に日本で農業をしてみると、日本とアジア・アフリカではそれぞれの問題や現状が違うことに気づきました。日本は規制もしっかりしているし、そういう問題が目につくこともあまりない。現在は隣の田んぼの人たちとも仲良くやらせてもらっています。

それでも私が自然栽培を続けているのは「面白いから」です。いろいろ使わないから、農業がとてもシンプルなんですね。

慣行農法をされている方たちが資材の話で盛り上がっているのに対して、私たちは種がどうとか、土がどうとか、水がどうとか。そういうシンプルなものに意識を向けています。その「原始的でシンプル」というのが、私にとって自然栽培の面白いところだと思います。

自然栽培に向き合う様子

Q

つくられているお米はどうやって販売されているんですか?

お米に関してはほとんどオンラインです。オンラインストアをつくって、注文を受けてお送りするという方法です。知り合いのお味噌屋さんに原料として使ってもらっている以外は、ほとんどオンラインですね。

私のところは、リピーターというか、毎年買ってくださる定期の方が9割を占めています。70軒ぐらいの方が「定期で食べたい」と言ってくだされば、私のところは成り立つんです。

マスに向けて何か仕掛ける必要はなくて、少数でも「近藤さんのお米が食べたい」と言ってくださる方にちゃんと出会って、関係性も築いて、「おいしいね」と思ってもらえる。そういう「繋がりのある農業経営」が、私には合っているなと思います。

課題でいえば、つくれる量がまだまだ少ないことですね。お客さんにお断りすることのほうが多くて。売れるか売れないかよりも、量をつくることができていないほうに課題を感じています。

お米の販売・発送にまつわる様子

Q

一年間の作業スケジュールを教えてください

だいたい3月から種の準備をして、4月の終わりぐらいに種まきをします。種まきをした後、芽が出て育苗という苗をつくる時期になって、6月の中旬ぐらいに田植えをします。4月から7月ぐらいまでが一番忙しい時期ですね。

草に向き合う時間もあります。そもそも無肥料で続けていると、生えてくる草の種類が変わってきます。よく見られるヒエなどの一年草はあまり出なくなり、代わりにオモダカやクログワイといった多年草のものが増えてきます。

それらには除草機を用いてきれいにしていきます。ただ、一部の田んぼでは除草を「もっと徹底的に」と、手作業で草をとるというのもしています。まだまだ課題は多いのですが、いろいろと試行錯誤しながらです。

そして10月ぐらいに収穫するというのが大まかなサイクルです。冬には雪が降るので、基本的に田んぼの作業はありません。

作業はないのですが、その分、このあいだしか時間が取れないことが多くて。販売に注力する期間なので発送も多く、大豆の選別なんかもしています。来春からどうするのかの勉強をしたり計画をつくったり、人に会いに行ける期間でもあるので外に出たり。

振り返れば、たとえば鶏舎を手づくりする年があったり、最初の頃は外でいろんなアルバイトをしていましたね。旅館のバイキング、スキー場の調理場、土木作業、除雪車など。

そういうアルバイトがなくなったり辞めたり、落ち着いたりして、昨年の冬ははじめてそこそこまとまった時間が取れたので、ずっと稲作の本を読んで勉強していました。

いまの時代、新規就農でお米を選ぶってやっぱり大変だし、それなりに不安もあるし、今後どんな気持ちで向き合って続けていけるのか、そういうことを歴史を見ながら考えたいと思って。

なにより米農家なので、お米についてちゃんとわかっていたい。よくわかっていないまま、お米のことをだれかに言ってしまうことは避けたいんです。ちゃんと勉強した上で、お米について言えるようになりたいと思っています。

稲作の作業や一年のサイクルの様子

Q

お米づくりで大切にしていることを教えてください

田んぼをきれいにすることです。お米がたくさん取れると嬉しいんですが、収穫量だけがすべてじゃないと思うんです。何を目標にしてお米づくりをすればいいのか、正直迷うこともあります。

でも、田んぼの中をきれいに管理して、まわりの草もちゃんと刈って、道具も整理整頓する。そうやって「きれいな田んぼ」を保つことを心がけています。結果はわからないけれど、きれいに整えた田んぼからは、きっと良いお米が生まれると信じています。

Q

新規就農を目指されている方へメッセージをお願いします

何でも良いんじゃないかなって思います(笑)。「こうじゃなきゃダメ」とか「ああじゃなきゃダメ」とか、本当にどうでも良くて。農業をやってみたい理由も、他人にどうこう言われる筋合いもない。

「やりたい」って気持ちや興味がわくというだけで素敵なことだと思うんです。いろんな理由があっていいし、どんな理由でも良いと思います。農業ってそういう「広さ」を持った仕事なんじゃないかなと。

自分のことで言えば、いま「自分の考えていること」と「やっていること」に差がないんです。「こういう風にありたい」という状態で過ごせている感覚があります。これがとても良いんです。

家族も持てて、大変だけど可愛い子どもたちもいて。お金がいっぱいあるわけじゃないんですけど、暮らしていけていますから。満ち足りているという感じですね。

近藤さんの農業の様子

取材・編集:甲田智之
撮影:石原佑美