日本でもっとも美しい村と言われる「新庄村」。
集落が点在して、郷愁をくすぐる田園風景が広がっている。

そんな田園でつくられているのが、新庄村の特産「ヒメノモチ」。きめの細かさと粘りの強さ、何よりその甘さに驚いてしまう。直売イベントでは行列ができるほど。
村をあげて、ヒメノモチの生産に取り組んでいる。

それを証明するように、2024年新庄村は新しく「新庄村ライスセンター」を立ち上げた。
ライスセンターとは穀物(新庄村ライスセンターでは、ヒメノモチ専用)の処理を行う施設。農家からもみを受け取り、乾燥・もみすり・選別・出荷を一元的に担う。

なぜ、「新庄村ライスセンター」を新しく立ち上げたのか。
現場を任されている坂本和也さんと坂本裕一さん(偶然同じ苗字だった)にお話を伺うと、新庄村で農業に関わる人たち、農家さんたちの想いが見えてきた。
――さらにその奥には「新庄村ライスセンター」ができたことで、農業にちょっとでも興味のある人が、「新庄村で農業を始められる〈関わりしろ〉」が見えてきた。

Q. 「新庄村ライスセンター」を立ち上げた背景を教えてください

坂本和也:

どこもそうだと思いますが、少子高齢化でお米をつくる人が年々減っています。新庄村ではその結果、これまで使用していたライスセンターが閉鎖になりました。しかしヒメノモチは新庄村にとって欠かせないブランドです。
新庄村が誇る「ヒメノモチ」の生産は続けていきたい。しかもヒメノモチに限らず、お米をつくり続けなければ、農地が荒れてしまうのは目に見えています。そういう話し合いをしていく中で「やっぱりライスセンターが必要だろう」となり、新庄村として立ち上げることになりました。

坂本裕一:

そうして立ち上げたのがヒメノモチ専用のライスセンターです。村内では現在(令和6年度)年間300俵ぐらいのヒメノモチを生産しています。300俵であれば、新庄村の道の駅「がいせんざくら新庄宿」で売り切ることができるので、ちょうど需要と供給のバランスが取れています。
新庄村内でヒメノモチを生産する。ライスセンターを通して出荷する。道の駅で販売する。きれいな循環の形ができあがり、ライスセンターができることで、より一層ヒメノモチの流通を円滑にしてくれます。

坂本和也:

もともと新庄村はヒメノモチの生産に適しています。米を育てるのに理想と言われている昼夜の寒暖差があります。さらに岡山3大河川のひとつ「旭川」の源流域。清らかな水、気候、そしてこれまでつくり続けてきた実績が、新庄村産ヒメノモチの強みです。

Q. 「新庄村ライスセンター」を運営されている母体はどちらになりますか?

坂本和也:

一般社団法人新庄村農業公社です。目的は、今後も新庄村で米やヒメノモチを持続的に生産していく環境を整えていくことです。その一環として「ライスセンター」の運営を担っていますが、そのほか自分たちでお米もつくっています。
またお米だけではなく、新庄村で生産できる作物の可能性を探るために、新しい作物の生産にも挑戦しています。うまくいけば農家さんにお伝えして、ヒメノモチに次ぐ新庄村の新たな作物になればと思っています。

Q. 一般社団法人新庄村農業公社も、新庄村ライスセンターも、持続的に農業を続けていくために欠かせないものなんですね。 農業公社では何名働かれていますか?

坂本裕一:

正職員は私を含めて3名です。例えば私で言えば新庄村の出身で、以前はJAに勤めていました(和也さんも同じくJAで、当時から慕っていた)。真庭市蒜山(ひるぜん)がエリアだったのですが、近いとは言え、環境も育てる作物も違う。

違いを感じる中で「生まれ育った新庄村で働きたい」という気持ちが強くなって、農業公社に就職しました。農業としての魅力はもちろんですけど、新庄村って良い意味で「おせっかい」なんです。何かあったら助けてくれる、だからここに帰ってきました。

Q. 新庄への愛をとても感じます! では「新庄村ライスセンター」の強み・特徴を教えてください

坂本和也:

スマートライスセンターシステムが入っている点ですね。農家さんの田んぼごとに、いまどういう状況かわかるようになっています。例えばA農家さんが何号の乾燥機に入っているとか、乾燥機のバーナーの温度が何度あるか。仕上がりがいつになるかもわかります。

また、クズや青米(未成熟な玄米)などの異物をすべて飛ばして、きれいなお米だけを残す機能もついています。その過程でクズや青米がどれぐらい含まれていたかも、スマートライスセンターシステムでわかります。

坂本裕一:

青米がどれぐらい含まれていたか、のデータはとても大切です。青米は早刈り(早い時期の収穫)をするとどうしても増えるので、そのデータを農家さんにお返しすることで「来年はもうちょっと待ってから、収穫しましょう」と伝えることができます。

私たちもお米をつくっているので、農家さんとよくやりとりをするんですよね。いろいろ話をしながら、お互い高め合っているように思います。

坂本和也:

新庄村には40年間、ヒメノモチを生産している農家さんもいらっしゃいます。どうすればもっと良くなるか、勉強熱心な方もいます。なので、ここでのデータをもとに「来年はしっかり防除(害虫や病害の予防)しましょう」「肥料を入れましょう」など話ができて、新庄村全体の農業のクオリティが上がっていると思っています。

Q. 一般的な「ライスセンター」ではなく「次に生かせるライスセンター」なんですね。ところで「地域おこし協力隊(※)」の方も関わっているとお聞きしました

坂本和也:

そうですね。これまでで言えば20代女性の隊員さんが関わってくれました。僕たちとあまり変わらない現場での仕事で、「耕運機」にも乗っていました。もともとは2トン車が運転できる免許もなくて。

新庄村に来てから、オートマ限定をミッションに切り替え、大型の免許も取得。トラクターにも乗ってもらって。お米だけではなく、いろんな野菜の栽培にも挑戦してくださって。一緒に新庄村の農業、ヒメノモチを盛り上げてきました。

坂本裕一:

新庄村では、そういう「地域おこし協力隊」の活躍の場が広がっています。現在、私たちと一緒にこの新庄村農業公社に関わってくださる方も募集中です。新庄村の協力隊については、新庄村役場のHPなどからも見られると思います。
ここを研修機関として利用していただいて、そのあいだに自分のやりたい農業の形を見つけて、新庄村に残ってもらえたら、と思いながら活動をしています。とくにここは先進的なチャレンジがいろいろできる場所ですので。

※地域おこし協力隊とは、地方に移住して、そこで暮らしながら地域ブランドや地場商品の開発や販売、農業や林業への従事など、地域おこしに関する活動を最長3年のあいだ行う制度です。定住を目的としており、任期中は給与が支払われます。

※新庄村の地域おこし協力隊について動画もありますので、そちらもご覧ください。
https://www.youtube.com/live/6jy7EIBmgpg?si=eyvbe2wip4UHR-iU

Q. ヒメノモチに関することはもちろん、農業に興味があれば、新庄村で地域おこし協力隊として始めるのも魅力的ということですね

坂本和也:

「とりあえず農業がどういうものか知りたい」そういう興味から始めてもらえたら、と思います。もしくはこれまでの地域おこし協力隊の方もそうなんですけど、新庄村を訪ねてみて、その美しさに惚れて「ここに住みたい!」というスタートでも良いかなと。
農業という点で言えば、自分でやればやった分だけちゃんと返ってきます。良いものができれば、それだけやりがいを感じますし、とても楽しいです。機械に乗るのが好きな方はさらに面白さが増すと思います。

坂本裕一:

農業って楽しみを見つけようと思えば、いくつでも見つかる仕事です。自分で考えて、身体を使って、自分の思ったように作業をする。そうして一所懸命に育てた分、収穫のときの達成感はひとしおです。
和也さんの言うように、まずは「ちょっと農業をやってみたい」というぐらいの興味から連絡をいただければ。新庄村では地域おこし協力隊の制度や、新庄村ライスセンターの存在、ヒメノモチというブランド力があるため、ひとりひとりの思う農業の形が叶う場所だと思います。お気軽にお問い合わせください。

聞き手・編集 甲田智之
写真 石原佑美