#真庭で新規就農
#大塚農園
#ナス・ミックスリーフなど
#新聞配達しながら農業していたことも
#哲学する農家
#小学校で演劇上演

Q. 農業を始めたきっかけを教えてください

もともと奈良県橿原市の出身で、大学は滋賀県草津。ずっと野山の広がる地で暮らしてきました。就職で兵庫県尼崎に住むようになったんですが、そこで初めて「街」での生活を経験して、無性に土が恋しくなったんです。

それまで農作業に特別な興味はなかったんですが、3m×5mの市民農園を借りて野菜をつくったり、マンションのベランダで栽培したり。自分で育てたミニトマトの美味しさに驚いたり、チンゲン菜の愛らしさに心を奪われたりしました。

特に印象に残っているのは、中国人の友達に育てたチンゲン菜を食べてもらって「美味しい!」と言ってもらえたことです。本場なのかわかりませんが、中国人からチンゲン菜を美味しいって言われたら嬉しいですよね(笑)。自分のつくったものを食べてもらって喜んでもらえる、この単純さ・シンプルさに魅力を感じました。これを仕事にできたらいいなと。

Q. それまではどのようなお仕事をされていたんですか?

大学卒業後、都市計画のコンサルタントをしていました。阪神淡路大震災の直後で、街づくりや区画整理の見直しに関わっていて。仕事柄、「人々の幸せとは何か」を考えるんです。そのなかで自分自身の幸せを考えたとき、「やっぱり田舎で農業がしたい」という思いが強くなっていたわけです。

26歳でコンサルの仕事を辞めて、農業の世界に入るための準備を始めました。大学の後輩が福島県で農業をしていたので、そこへ行って経験を積ませてもらったり、大分県の国東半島で6ヶ月間研修をしたり。その後、奈良県で農産物の流通を扱う団体に勤めました。

Q. 真庭市での就農を決めた理由は?

妻が真庭市の出身で、「絶対に真庭の実家に帰る」という強い思いがあったんです。その流れから、真庭市のJAの部会のひとつでもある「久世(くせ)有機の会」の存在を知りました。

妻には申しわけないんですけど、当時は正直、岡山県北に人が住んでいるイメージがなくて(笑)。でも、「久世有機の会」が(関わりのあった)コープ神戸へ産直しているという話を聞いて、ここなら農業で食べていけるかもしれないと思いました。

Q. 就農当初の様子を教えてください

真庭での就農は、岡山県の「ニューファーマーズ確保対策事業」を活用することから始めました。2年間で毎月15万円の支援を受けるものです。作物はナスとほうれん草からで、先輩農家さんのとなりの畑を借りて、教えてもらいながら「見よう見まね」で始めました。

ただ、その2年間の支援期間が終わってからが本当の勝負でした。ナスは7・8・9月、ほうれん草は12・1・2月の収穫で、この6ヶ月で1年分の収入を得なければなりません。特にほうれん草は失敗続きで、収入が大幅に落ち込んでしまい、資金的にかなり厳しい状況になりました。

Q. その苦しい時期をどう乗り越えられたんですか?

新聞配達を始めました。深夜1時半から5時過ぎまで配達して、その後農業という生活を送っていましたね。「人間は夜眠らないといけないようにつくられているんだな」と実感した日々です(笑)。でも、新聞配達のおかげである程度の収入が確保できて、農繁期には人を雇うこともできるようになりました。

結果的にそれが今の農業スタイルの確立につながっています。農業って作業自体は単純でも、経営となると別物です。天候に左右されるし、草刈りのタイミングひとつ間違えると10倍の手間がかかる。経営判断をつねに迫られるんです。

Q. 現在の経営状況について教えてください

ナス、ほうれん草、ミックスリーフなどを栽培しています。2019年からはハウスでネギも始めました。販路は真庭市場、真庭あぐりガーデン、地元スーパーなど。「落合野菜果物出荷組合」にも参加して、20人ほどの農家で協力しながら県内20店舗ほどのスーパーに出荷しています。

JAとの関係も良好で、ナス、ほうれん草はJAを通して「コープこうべ」に出荷し、それ以外は自分の持っている販路で販売しています。真庭のJAは柔軟で、それが魅力のひとつですね。

※真庭市場とは、真庭の新鮮な野菜や果物、特産品などを産地直送で販売しているお店。現在は、大阪府高槻市と滋賀県守山市にある。

※真庭あぐりガーデンとは、真庭の旬の野菜や果物、加工品などを販売するマーケット、地域の食材にこだわったレストランやカフェがある市内の施設。

Q. 農業経営の難しさについて、どのようにお考えですか?

農業は太陽の力を借りてタダで電気を使わせてもらっているようなものだと思っていますが、やはり天候の影響は大きいですね。工場と違って自然が相手なので、コントロールできない部分が多い。最近は異常気象が当たり前になっているので、前年までの栽培方法が通用しないということがよくあります。

最近で言うと、例年には無い11月の大雨により、ほうれん草の栽培に大打撃を受けました。土の水分が多すぎたことで、根痛みし、葉っぱが黄色くなって、回復不能になりました。

Q. 真庭での生活はいかがですか?

とても満足しています。自然環境も良いし、久世であれば生活にもそれほど不便がありません。何より子育て環境が素晴らしい。地域との関わりも大切にしていて、消防団やPTA活動、JA青壮年部、中央図書館イベントなど、様々なコミュニティに所属しています。研修会などで新しいことを学べるのも楽しみのひとつです。

たとえば、PTA活動では毎年の学習発表会で創作劇をしています。シナリオ作りから、道具作り、演出、出演まで、校長先生も巻き込んで楽しくやっています。農業を生活の糧にしながらも、気の合う仲間と「読書会」、「哲学対話」、「寸劇づくり」、「映画会」等々、僕の真庭ライフスタイルを楽しんでいます。

聞き手・編集 甲田智之
写真 石原佑美