#湯原ふぁーむ
#トマト・サツマイモ・しいたけを栽培
#大阪の公務員から移住して農家へ
#借り入れで売上を拡大
#「借金するのに慣れてたんですよ」
#独自の販路「落合野菜果物出荷組合」
#農業って稼げるし、楽しいよ
#1億円の売上が視野に

Q. 農業を始めたきっかけを教えてください

農業がしたい、とハッキリ思っていたわけではありません。「仕事から逃げたい」という気持ちがあっただけで(笑)。当時、大阪で公務員として働いていたんですけど、僕には向いてなかったですね。役職が上がるにつれて求められることも増えて、精神的にけっこう参っていました。
ずっと窮屈さを感じていたように思います。そのときにふと浮かんできたのが、小学2年生まで過ごしていた兵庫県の田舎の風景でした。「自然の中で暮らせたら良いな」と思うようになって。たまたまた奥さんが真庭の出身ということもあり、真庭の自然に惹かれて結婚後、すぐに真庭へ移住しました。

自然の中で働きたい、という思いはあったものの、事務職は苦手、人と接するのも苦手、電話応対も苦手。できることが限られている中で、ネットで調べていくうちに「農業」と出会ったんです。「そうだ、移住して農業をしよう」そのときはじめて思いました。
ただ、まわりからは反対されましたね。「農業」というよりは「自営業」への心配でした。ずっと公務員だったので「農業って自営業だけど、いきなり大丈夫?」という風に。それに対して「確かにそうだな」と思って、移住してすぐは新規就農せず、まず森林組合で働くことからはじめました。

Q. すぐに新規就農ではなかったんですね。それでも農業の道へ進むようになったと思うのですが、作目はどのように決められましたか?

森林組合に1年2ヶ月ぐらい勤めました。その後「やっぱり農業がしたい」と思って。真庭農業普及指導センターに相談しながら、補助金(真庭市農業次世代人材投資事業補助金※)を受けられるよういくつかの研修を受けました。

※真庭市農業次世代人材投資事業補助金(当時)とは、農業を始めて間もない若者(原則45歳未満で独立、自営就農する者)に対して、最長5年間、年間最大150万円を支給する制度。

だ「補助金の出る5年間のうち、4年目以降は補助金をもらわなくても生計が立てられるようにする。それができないようなら、きっぱりとあきらめて、どこかに就職する」と決めていましたね。

作目は「すぐに農業を始めたいんです」と普及センターに相談したら、「トマトが良いんじゃないか」と教えてもらいました。それでまずはミニトマトから。
ただ、農地は困りました。畑がない。本当に困っていたんですけど、研修とか農家さんの集まりに参加する中で、農家さんの知り合いができて。また奥さんの繋がりの中からも、農家さんの知り合いができて。そのうちのおひとりから農地を紹介してもらいました。

Q. 困りごとと言えば、農地の他にも「初期投資がかかる」とお聞きします。その点はいかがでしたか?

借金ですよ(笑)。初年度でいえば、ハウス1棟が200万ぐらいだったかな。その他もろもろ入れて、300万円ぐらいのお金を借りました。「青年等就農資金」っていう制度があって、無利子でお金が借りられるんです。

※青年等就農資金(当時)とは、農業経営を開始するための機械や施設などに必要な資金を無利子で貸し付ける国の制度。融資限度額は、3700万円。融資期間は12年(うち据置期間5年)。

僕ね、借金するのに慣れてたんですよ(笑)。大学生のときにパチンコとかスロットで遊びまくってて。お金がなくなったらよくキャッシングしたりしてたんで、いまめっちゃ突っ込めるんですよ、お金。ぜんぜん怖くない(笑)。

中には「借金がいや」という人もいます。でもそれだと規模が変わらない。借金して投資をするから、規模が大きくなっていくんです。だから売上も1億円を視野に入れています。もちろん、その売上1億円というのはお金がほしいわけじゃなくて「つぎつぎ新しいことをやっていきたい」という僕の気持ちのあらわれなんです。

Q.「補助金の出る5年間のうち、4年目以降は補助金をもらわなくても生計が立てられるようにする」とのことでしたが、それは叶いましたか?

4年目には1000万ぐらいの売上は上がっていました。「農業って楽しいし、稼げるよ」と伝えたいですね。とくに今、僕たちがしている「落合野菜果物出荷組合」という存在が大きいと思います。20代から40代の農家が20名弱ぐらい参加しているグループです。

岡山県内を中心に多店舗展開している「A店」に野菜を出荷していて、毎日30店舗ぐらいに出荷しています。農業って売上1000万円がひとつの目標って言われているんですけど、いま何名もの農家が1000万円を超えています。そういう人たちと一緒にいて、情報交換をするので、若い子でももうそのうち1000万円を超えてくると思います。

JAさんに出荷しているものもあります。自分で選べるので、リスクヘッジというか、いくつか販路をもっておくことが大切ですよね。販路を持っていたら「こんなにもつくったら余ったりするんじゃないか」という心配がない。何も考えず、どんどんつくれます。

Q. トマト以外もつくられていますか?

主には、しいたけとサツマイモですね。トマトをつくりながらも、しいたけとサツマイモなら通年収穫できるというメリットがあるんです。通年収穫というのが大きくて。

新規就農の方に「お金をかけずに生計を立てやすい葉物からつくってください」と伝えているんですけど、結局何かと言うと、葉物って種が安くて失敗してもすぐに植えつけられるというメリットに加えて、通年収穫できるというのが大きいんです。

トマトの出荷時期はおよそ7月から11月。それ以外の時期に出荷できるもので、なおかつこのあたりは雪が積もるので、積雪の影響を受けないもの。そう考えて、しいたけを始めました。

また、パートさんから「まだもう少し手があいています」と教えてもらって、それでサツマイモを。サツマイモって貯蔵ができるんです。だから5月ぐらいに植えて、秋頃に収穫。それから貯蔵して、貯蔵したものを少しずつ出荷するようにしています。

Q.「パートさん」というお話が出ましたが、パートさんを雇われているんですね

売上900万円ぐらいまでだったら、しんどいとは思いますけど、1人でできると思います。ただ1000万円超えたら、それに応じてパートさんなどを雇う必要が出てきます。
でも当然ながら、パートさんを雇ったら身体はラクになりますが、お金がしんどくなります。だから結局また自分が思いっきりがんばって、借り入れをして規模を大きくして、そうしてパートさんを雇う。そうするとまたお金がしんどくなって、自分が思いっきりがんばって、借り入れをして規模を大きくして、パートさんを雇って。そのくり返しです(笑)。

自分が思いきりがんばるのも、70歳ぐらいまではできるかなと思っています。僕の場合、38歳ではじめたんですけど、40歳を超えたらね。違うんですよ。農業とか関係なく、身体が鈍くなっていく。でも農業って70歳ぐらいの方でもバリバリなんですよね。だからたぶんやろうと思ったらできるんです(笑)。

Q. 体力の面で言えば、例えば怪我とか「万が一」の場合について考えることはありますか?

万一のことがあったとしても、収入の面でもね、収入保険みたいなのがあるんです。売上が落ちても、ある一定の額までは保障してくれる。たとえば令和4年度で言えば、売上見込が2千数百万ぐらいだったですけど、保険料を払っているので1800万円ぐらいの売上は保障されるんです。

※収入保険制度とは、一定の条件を満たし、保険料と積立金を支払うことで受けられる制度。自然災害や取引先の倒産、病気なども対象になる。

保険料は、年間で十数万ぐらいです。でもまだ一回も利用したことはなくて、いまのところ農業を始めてから右肩上がりなので(笑)。そういう制度をはじめ、補助金とか無利子で貸してくれるとか。農業ってほんとに恵まれているんです。だから、さっきの話に返ってくるんですけど「農業って楽しいし、稼げるよ」って。

実際、地元(大阪)の友だちが遊びに来た際、農業の話をして。真庭で農業を始めた方がいるんです(林岳志さん※)。白ネギの農家さんとして、いま真庭でいちばん白ネギを育てていて、売上も上がっていると思います。そういう風に、どんどん農業っていう仕事を知ってもらって、どんどん受け入れていきたいと思っています。

聞き手・編集 甲田智之
写真 石原佑美